歯科医師である前に
まず「人として」
あなたに貢献できる存在に
なりたいと思っています

とおや歯科クリニック 院長 遠矢剛明

とはいえ、大学を卒業したばかりの私というのは、国家試験の勉強をして合格したというだけで、歯科医師としての専門的な経験は何ひとつとしてありません。当時は、まったく実力もない新米の私が患者さんから「先生」と頼られることを申し訳なく思っていました。

それでも、先輩の先生方についてさまざまな症例を経験していくうちに、少しずつ歯科医師としてのスキルも身についていきました。肉体的にはものすごくきつかった大学病院での仕事でしたが、かなりの知識と技術、そして経験値を得ることができた…はずでした。

ところが、その自信は自分の歯科医院「とおや歯科クリニック」を開院して、あっという間に打ちひしがれることになります。というのも、私は大学病院で口腔外科の知識や技術、経験値を積んできただけだったからです。

大学病院でそれなりにやってきていましたので、もちろん自信はありましたし、歯科治療全般についても開業医の先生のもとで一通り対処できる経験をさせていただいていたので、来院する患者さんにも満足な歯科医療サービスを提供できると思っていました。でも、さまざまな難しい症例の数をこなしていないことから、基本に忠実な治療だけでは十分に対応できない状態だったのです。

でも、自分で歯科医院を開業した以上、そんなことも言っていられません。学生時代からの仲間などに頼りながら、どうにかして来院する患者さんたちのご要望に応えられるように必死で勉強し、技術を磨きました。

ただ、どれだけ勉強しても、なかなか自信が持てなかったのが偽らざる本音です。患者さんに説明をするにしても、患者さんから「経験あるのかなぁ…」「この先生で大丈夫かなぁ…」と思われているんじゃないかと、とにかく不安でいっぱいだったのです。

そのころの私は「先生と呼ばれる立場なのだから、もっとしっかりしないと…」と思って必死だったのですが、当時参加していた異業種交流会で、あることに気づきます。それは、歯科医師である前に「人として」という部分のほうが大事なんじゃないか？ということです。

異業種交流会では、歯科医師だからと言って「先生、先生」と呼ばれることなんてありません。会のメンバーの一員として、私にも他のメンバーと同じように接してくれます。そんなふれあいをしているうちに、「自分も社会に出ればただの人じゃないか？」と思ったのです。

それまでの私は、先生と呼ばれる立場だからこうしなきゃいけない…みたいな思い込みがありました。でも、本当に大切なことは「歯科医師である前に人として」という感覚なのでは？ということに気づいたのです。

この感覚が分かってから、患者さんとのコミュニケーションがスムーズになりました。患者さんに頼られる立場なんだからとか、患者さんから先生と呼ばれる身分なんだからとか、そういう人に自分の隙を見せてはいけないというような思い込みがスッと抜けていきました。

私のやるべきことは、まず人として患者さんと誠実に向き合うこと。そんなシンプルなことに気づいて、私は少しずつ自信を持って歯科医療に取り組むことができるようになりました。結局のところ、人としての自信がなかった…ということが一番の問題だったのです。